半導体産業は、これからの日本にとって最重要事項の一つとも言えることなので、自分なりに様々な資料やニュースにあたって勉強している。その中で得た知識を、この問題についてもっと真剣に考えていきたいと思っている方々に共有するために書いて残しておこうと思う。
もくじ
半導体戦争
まず、なぜこんなに話題になっているのかだが、簡単にいうと「半導体戦争」の様なものが起こっているからだ。
半導体業界では生産力不足を理由に、昨年10月からドミノ式に値上がりが続いている。(特にウェハー製造やクローズドベータテストは深刻な状況らしい)。どちらも多少の価格変動では需要には影響しないので、コロナ禍によって製造能力が制限を受けてしまっている状況下においては、短期間での原状復帰は無理だろう。
しかし、値上がりの原因はコロナ禍だけではない。米中貿易摩擦により人為的に製造コストが引き上げられ、半導体業界で世界的にバランスを崩す状況に陥っている。そして、跳ね上がったコストは当然、下請けの重荷になっていく。
値上がりの真相は?
しかし、この業界内では一連の価格高騰の背景は「欠品状態は擬似的なもの」との共通認識を持っているという。
生産力不足は確かな事実ではあるものの、ファーウェイなどの一部企業による買い占めが値上がりの本当の原因であるという。
こうした買い占めの実態については、以下のような事実がある。
TSMCへの滑り込み発注
アメリカによる輸出規制に対応するため、ファーウェイは2020年の1月より在庫の積み上げを積極的に進めてきた。その核心となる法人向けICTソリューション事業ユニットでは、輸入部品を1年分以上確保済みだとも言われている。
5月になるとアメリカはファーウェイ締め付けを本格化した。そのことで、アメリカの技術を用いて製造されたチップ製品を調達するには許可証が必要となった。
そこでファーウェイは台湾のファウンドリー(半導体受託製造)の大手である「TSMC(台湾積体電路製造)」に対し、5nm製造プロセスおよび7nm製造プロセスを含むチップを滑り込み発注したのだ。
その発注額は7億ドル(約740億円)にも上り、TMSCのキャパシティーをオーバーするほどだったという。テンセントのニュースメディア騰訊新聞によると、ファーウェイは昨年上半期、1年分以上のチップの在庫確保に1800億元(約2兆9300億円)を投じたという。
SMICも禁輸対象に
中国のファウンドリー大手「SMIC(中芯国際集成電路製造)」も同様、昨年9月下旬に米商務省産業安全保障局(BIS)による「エンティティ・リスト(禁輸リスト)」に掲載された。
中国の金融系ニュースサイト金融界(JRJ.COM)の10月の報道によると、SMICは過去数カ月にわたり製造設備や代替部品の輸入を増やし、中国国内のチップメーカーと共同で集中型倉庫を建てて在庫を積み上げたという。
SMICが欧米や日本などのサプライヤーから調達した設備は、2020年の1年間に必要とした規模以上で、設備の運転に必要な消耗品の購買数も年間需要量以上に達したという。
ファーウェイ以外のスマホメーカーも在庫争奪戦に参加
2020年9月にアメリカの技術を用いて製造した半導体製品の供給が全面的に禁止されて以降、ファーウェイに続く中国の大手スマートフォンメーカーOPPO、シャオミ(Xiaomi)、vivoも、ファーウェイの空けた穴を埋めるべくこぞって在庫の確保に走った。在庫の買い占めはサプライチェーンの川下から始まって川上にも伝わっていき、業界全体で在庫強化の波が起こったようだ。
半導体関連企業は3カ月分の在庫を確保しておくことが常態化しており、一部では6カ月程度の在庫を積み上げているメーカーもあるという。
業界再編になるか??
チップの製造能力が復調するには半年から1年単位の時間が必要だというのが半導体業界の大方の認識らしい。早くても2021年の下半期か2022年初め頃になるということになる。
今回のチップ価格高騰は半導体業界全体に波及し、企業の規模や業種によらず、事業の成長に少なからず負の影響を及ぼしている一方で、これを機に半導体業界のエコシステムが再編されるとの見方もある。
多くの資本が投じられることでバブル状態を呈していた半導体業界だが、ベンチャー企業の淘汰が起こり、リスクマネジメントや持続可能な成長能力を有する企業だけが生き残る可能性もあるという。(参考)
アメリカの方向
チップ不足が原因で、自国の自動車産業に大ダメージを受けているアメリカは、やはり他国だけに頼っていてはだめだということで、アメリカ企業のインテルに投資して、アリゾナで二つの工場建設に向けて動き出している。
このことは今月12日にアメリカで行われた「半導体サミット」でもインテルのCEOが発表した。
このことに批判的な意見(インテルはTSMCには敵わない。むだむだ!)も散見されている。
しかし、アメリカは国家の体(てい)としては、真っ当なことをしていると思う。
TSMCはファブレスという経済戦略が大ヒットして、また台湾国家からの絶大な支援を受けて、国策企業として、あれだけ大きくなった企業だ。
日本が半導体産業から遅れをとったのは「ファブレスをしなかったからだ」
と、TSMCの創業者であり長年のCEOであったモリス・チャン(中国大陸生まれ→香港移住→アメリカ留学→アメリカの半導体企業に長年務める→チャイナ大陸人の実業家にリクルートされる→資金集めに奔走し、フィリップ社と沢山の日本企業からの出資を受けて、台湾で企業する)がインタビューではっきりと答えている。
また、アメリカも「TSMCを排除せよ!」とは言っていない。トランプ政権時代に誘致された工場建設も続いている。
それとは別に、自国の企業を応援するために、政府がしっかりと後押しをすることは絶対に大事なことだ。
日本の政治にはそこが決定的に欠けていると思えてならない。
新字体・現代仮名遣い版 世紀の遺書 愛しき人へ/ハ-ト出版/巣鴨遺書編纂会